スポーツ指導者のためのスポーツ栄養学
クリエーター情報なし
南江堂

(栄養学は川島四郎さん、丸元淑雄さんの本を読んだ他はマスコミやコマーシャルの断片的な知識に拠る。少し体系的に書かれた本を読んで関連が分かってくると、逆にいろいろと疑問が出てきてしまった。断片的な知識は一面的あるいは特定条件下でのことなので、相互に矛盾していていることも多い。またある時点で誤りだと分かったことも、誤ったまま思い込んでいることも多いらしい。筋肉を増量しようと筋トレをする時にはタンパク質を通常の倍くらい摂取した方が良いと思っていたが、それはまったく意味がないらしい。推奨量の1割増しも必要かどうか不明で、むしろ今はタンパク質の過剰摂取が心配な状況にある。一度知識の整理をしてみる必要がありそう)。

長時間持久性運動でのエネルギー源は、前半は筋グリコーゲンが60%強、トリグリセリドが30%強。中盤は筋グリコーゲンが30%強になり、トリグリセリドが50%強、グルコースが残りを補う。後半、ペースを維持できなくなるのは主に筋グリコーゲンの枯渇分が補えなくなるから。グルコースは肝臓での糖新生で作られる。持久力をエネルギー面からトレーニングできるとすれば、筋グリコーゲン量増加、糖新生能力増大、グリセリドでの運動能力強化を図ると言うことになる。

中性脂肪からの糖新生は、日本の栄養学ではあまり注目されていないのだろうか。英語版のウィキペディアで見るとピルビン酸・アミノ酸からの糖新生と同等の位置づけで記述されている。これが日本語版ではまったく記述されていない。英語版のディスカッションページには糖新生は特別な代謝ではなく、ごく普通に起こっているし、グリセリンの代謝として重要なものだと主張している人がいる。ホームページを探して2件、言及しているのを見つけた。栄養素の代謝と相互変換、ダイエット7糖新生ダイエット。糖新生の材料になる脂肪は、グルコースから生成されて脂肪細胞に貯蔵された中性脂肪だけ、と言うことに注目すべきと思う。炭水化物を食べると脂肪としても貯蔵されるのだが、それは運動の際に糖新生の材料になるので、持久力アップに貢献することが期待できる。

食事も健康に対するリスクファクターの一つ
疫学的研究からおおよその傾向が分かる。短期の介入実験での結果はまだまちまちである。
慢性疾患(肥満、心疾患、消化器疾患など)の発症頻度は脂肪の摂取レベルが高い集団で高い。食事中のエネルギーの大部分が精製糖の少ないでんぷん質食品を摂取している国々での冠動脈疾患の発症率は低い。この種の炭水化物にはビタミン、ミネラルが多く共存し、食物繊維も多い。
1970年代にアメリカで健康的な食生活のための勧告
・エネルギー摂取量をコントロールすること:疾病率と死亡率はわずかな体重の増加でも激増する。過体重によるリスクは著しく肥満している人だけに限ったものではない。特に家族に冠動脈疾患や糖尿病がある場合大きな問題となる。
・脂肪、特に飽和脂肪酸を減らすこと:冠動脈疾患の予防には、総エネルギー摂取の30%以下に、とりわけ飽和脂肪は10%以下に抑えること。飽和脂肪の影響は遺伝的因子に支配されている。コレステロールは体内で合成されるので食事中のコレステロールだけが関係しているわけではない。飽和脂肪の過剰な摂取、過剰なコレステロール摂取、コレステロール代償システムの欠陥によってバランスが崩れる。
・繊維質の豊富なデンプン質の食物を多く摂ること
・精製・加工糖を減らすこと
・塩分を減らすこと
・アルコールを減らすこと

1970年代に出されたアメリカで健康的な食生活のための勧告、続き。
炭水化物の摂取、主に非加工食品からエネルギーを摂るべき。一日のエネルギー摂取量の少なくとも半分、できればそれ以上を炭水化物から摂るべき。(最近は60~70%と言われることが多い)。食物繊維は1日30gを推奨。但しフスマの過剰摂取は無機質の吸収阻害、腸の運動障害といった副作用がある。
タンパク質の摂取、西欧諸国では男性100g、女性75gが実態。この数値は勧告値と一致しているが、飽和脂肪を多く含む動物性の過剰な摂取は避けるべき。(最近は体重kg当たり1gくらいとされている)。
同様の勧告は各国が出している。付録III参照。所要量の値は1日当たりとして示されているが、必ずしも毎日所要量を満たすように食事しなければならないことを意味しているわけではない。身体は少なくとも数日間は十分な量の栄養素を蓄えておくことができる。ある程度は不規則な摂取にもうまく対応できる。
日本人の栄養所要量第六次改定(1994年付録III)によると50代の体位基準値は男性身長163.9cm体重62.5kg。生活強度が適度な場合のエネルギー必要量は2300kcal。タンパク質所要量は65g。脂肪エネルギー比率は20~25%。
(2005年版は厚生労働省のHPにある。これによると身長164.7cm、体重64.0kgと少し体位向上しており、ふつうの生活では2400kcalが推奨。タンパク質は60gと減らされている。脂肪エネルギー比率20~25%は変わらないが、飽和脂肪比率の値があり4.5~7%。また炭水化物のエネルギー比率も50~70%とされている。飽和脂肪5%とすると120kcal約13g、卵2個分相当。国産のサーロインステーキだと30gくらい、肩ロース赤身でも50g。豚肩ロースだと70gくらいなので、140gのとんかつを2日に1回食べると、他には一切肉類・乳製品は食べられないことになる!)

食物からエネルギーへ。体重の増減はエネルギー収支による。エネルギー摂取が超過すると過剰なエネルギー分は体脂肪として蓄えられる。不足すると身体に蓄えられているエネルギー源が動員される。(出入りの書き方が微妙。体重が増える時は脂肪のみ、減る時は脂肪に限らない。文字通り読むと除脂肪体重を増やすことはできない。)
エネルギーの大部分は体温保持のために使われる。運動中でも75~80%は熱として放出される。(熱生成のエネルギー源としてのアルコールは優れているのかもしれない)。炭水化物、脂肪、タンパク質が燃焼する時の酸素量と発生する二酸化炭素の比率はそれぞれ異なっているので、それぞれの利用量の推計が可能になる。
安静時の酸素摂取量VO2は0.2~0.4l/分。運動の強度に比例して酸素摂取量は増えるがある量からは増えなくなる。これを最大酸素摂取量VO2maxと言う。酸素運搬、利用の生理的能力を示す。遺伝的要因が最も大きく、トレーニングで5~15%の範囲で増強することができる。マラソン選手で5~6l/分、一般人は2~3l/分。100%を超える運動もある。短距離走では2~4倍に達する。
摂取したエネルギーはグリコーゲンか中性脂肪として蓄積される。必要になればタンパク質も糖新生によってエネルギー源となる。
口腔と食道で糖質の分解が始まる。胃では糖質の分解は止まり、タンパク質の分解が始まる。1分~4時間留まる。十二指腸では乳化、アルカリ化され、糖質、中性脂肪、タンパク質の加水分解が行われ、5分~5時間留まる。小腸では引き続き消化が進み、単糖類、ペプチド、アミノ酸、脂肪酸、グリセリド、ビタミン、ミネラル、水が吸収される。通過速度は繊維成分に支配されるが1~6時間。大腸では水、ミネラル、ビタミンKが吸収され5~24時間留まる。(時間の開きが大きすぎて、どう考えて良いか分からない。大腸に至る前の消化吸収では、最速の場合数分で吸収が始まり1時間くらいで終わる。最長の場合は15時間もかかる。)

糖質の貯蔵。血中グルコースとしては50kcal。肝臓グリコーゲンとして300kcal。筋グリコーゲンとして500kcal。 肝臓グリコーゲンは中枢神経が必要とするエネルギー源であるグルコースを供給する。筋グリコーゲンは脳や他の機関にグルコースを供給しない。グリコーゲンの貯蔵は食事による継続的な糖質の摂取によってのみ維持することができる。(脳は1時間に24kcalのグルコースを必要とすると紹介しているHPがある。肝臓グリコーゲンだけから供給するとすると、12時間で尽きることになる。糖質の吸収が終わって肝臓グリコーゲン貯蔵量がピークに達してから12時間は大丈夫。食後3時間で消化が終わるほど消化の良いものを食べても、次の食事まで食後15時間あると考えて良いだろうか。夕食を21時に終えると翌日の12時。)
タンパク質の貯蔵。アミノ酸への分解・タンパク質への合成が繰り返されるが貯蔵することはできない。過剰なアミノ酸は肝臓で糖新生の材料になることができる。つまり糖として貯蔵されるが、糖からアミノ酸は合成されない。この時生成する窒素を含む部分には毒性があるため腎臓で体外に排出される。タンパク質の過剰な摂取は腎臓に負担をかけるのはこのため。極端な飢餓状態では身体を構成するタンパク質もエネルギー源として使われることがあるが、わずかでもこのような消費が起こると健康に大きな悪影響を及ぼす。

運動開始から5分~15分すると持久的運動の定常状態になる。筋グリコーゲン、肝臓グルコース、脂肪酸の有酸素的代謝が継続する。筋グリコーゲンの枯渇に伴い脂肪酸と肝臓グルコースの割合が次第に増す。初期のグリコーゲンの無酸素的代謝も継続はしているが時間とともに大きく減少する。運動強度的に余裕があれば運動開始時に枯渇したCPも再生される。
定常状態に至ってからの運動強度増加においては、定常状態で再生されたCPが再度動員される。また、筋グリコーゲンの無酸素的代謝過程も動員される。有酸素代謝だけで維持できない強度の運動は、短時間で継続が困難になる。
最大酸素摂取量のおよそ50%までの強度では、脂肪の酸化系のみによってエネルギー供給することが可能である。ほとんどのスポーツは最大酸素摂取量の75%以上の強度で行われるのでエネルギー基質としては糖質にかなり依存している。
(ページを少し戻す。)酸素摂取量とランニング速度はほぼ比例関係にある。70ml/kg/分で時速20kmくらい。(50ml/kg/分で16km/時、25ml/kg/分で8km/時。以前測定した最大酸素摂取量は52ml/kg/分だったので、サロマをキロ7分半で走ったのは妥当だったことになる。フルを70%強度で走りきるとすると11.2km/時、3時間46分。凄い、これまでの記録が説明できてしまった。75%強度を42km維持するトレーニングができれば3時間半も夢じゃない!)

運動中に使われるエネルギー物質は、運動の強度、時間、様式、トレーニング状態、運動前の食事に依存する。
低強度の運動では脂肪とグルコースとグリコーゲンが混合して酸化される。Vo2Maxの最大レベルでの運動では主に糖質の酸化に移行し、さらに酸化過程で不足するエネルギー需要を満たすためには乳酸生成系(解糖系)が働く。Vo2Maxを超える最大強度運動では酸化系代謝への依存は小さくなり、解糖系とCP利用が主に働く。この時、安静時の600~1000倍ものエネルギー利用速度になるので60秒以内に貯蔵グリコーゲンは枯渇してしまう。同量のグリコーゲンを酸化系で代謝すれば数時間にわたるマラソンのエネルギー供給が可能である。

自転車負荷運動中の大腿四頭筋外側での貯蔵グリコーゲンはVo2Max120%の強度では20分で10%以下、83%強度では60分で20%、64%強度では120分で20%までに減少する。Vo2Max31%なら180分でも50%近く残っている。
(低強度の自転車負荷は脚だけに集中する。全身の筋肉を使ってうまく走れば自転車負荷の倍以上の負荷をかけ続けられるのではなかろうか。)
持久的運動の定常的状態に達した時点では、総エネルギーの5、60%は筋中のグリコーゲンから供給され、残りのほとんどは遊離脂肪酸から供給される。グルコースの取り込みはわずか。運動が進み、貯蔵グリコーゲンが減少すると脂肪の利用が60%くらいになり、グルコースの利用も増える。
肝臓は運動中に糖新生でグルコースを供給する能力がかなりある。トリグリセロールが分解されて遊離脂肪酸と同時に生成されるグリセロール、解糖系過程の副産物の乳酸・ビルビン酸・アラニン、が糖新生の原料になる。アラニンは遊離アミノ酸の解糖過程からも生成される。
貯蔵グリコーゲンの量が限界に達すると、筋での遊離アミノ酸の取り込み、解糖系での利用が増加する。さらに過剰に生成された脂肪酸から肝臓でケトン体が合成され、その利用も進む。
(大会の時とか特別のトレーニングの時以外ではそんな状態にしたくない。筋肉が落ちてしまいそう。ケトーシスになるのは身体にかなり悪そう。)
グリコーゲン代謝への依存が最小となった状態では、脂肪酸の酸化と糖新生のみで充足できる強度の運動になる。その強度はVo2Maxの50%前後。

持久的トレーニングは同じ運動を行った時のグリコーゲン消費割合を低下する。グリコーゲンの酸化的利用、脂肪の酸化、ケトン体やアミノ酸の利用割合を高める。これはトレーニングの以下の効果による。
・ミトコンドリア密度の増加と酸化酵素の増加
・毛細血管の増加による血液供給の増加
・糖新生能力の増大
・心拍出量の増加
これにより、トレーニング前と同量の糖質を利用して大きな運動量が可能になりパフォーマンスが向上する。
インターバルトレーニング、スプリントトレーニングの効果は良く分かっていない。
運動前の食事により肝臓及び筋中のグリコーゲンの貯蔵量が決まる。糖質摂取不足ではグリコーゲン貯蔵量が少ない状態で運動を始めることになり、グリコーゲンの枯渇が早くなるためパフォーマンスが低下する。カーローディングによって貯蔵量を通常より高めることが可能と考えられている。これにより持久的能力は増大する。但し、スピードの増加を高めるかについては、はっきりしていない。
食事から炭水化物を除くと、脂肪代謝への依存が高まる。高タンパク、高脂肪食はケトン体を増加させるのでケト原生食と呼び、数週間または数ヶ月続けると、脂肪とケトン体をエネルギー源として利用する能力が高まる。この時グルコースの供給はほとんど糖新生に依存することになる。
・ケト原生食により、Vo2Max50%程度の運動における持久的能力は高まる可能性があるが、スピードは低下する。
・トレーニングの遂行能力を制限するので、トレーニング効果が得られない。
(ケトン体が増加すると体液が酸性に傾きやすくなるのではないだろうか。体液を酸性に傾けるのが健康に悪いことは、アルカリ食健康法を勧める川島四郎さんが強調している。)
(炭水化物抜きダイエットは、ケト原生食に近い。脂肪代謝を高めることができるので体脂肪減少には効果があるのだろう。しかし、極めて健康に悪いに違いない。ランナーの場合、体重減少の効果よりもトレーニング効果減少による能力低下の方が大きいに違いない。)

グリコーゲンの供給が継続できなければ運動のパフォーマンスが制限されてしまう。疲労を判断する最も単純な方法はエネルギー利用の需要に供給が追いつけなくなったかを評価することである。(要するにグリコーゲンの供給が不足した状態は疲労していると判断できる。)
フルマラソンでのエネルギー供給源について。
・レース前半。炭水化物と脂肪とが酸化される。筋中の貯蔵グリコーゲンへの依存は45~50%。残りはグルコースと脂肪酸から得られる。
・中盤。脂肪酸とグルコースの酸化が相対的に増加する。
・後半、グリコーゲン代謝によるエネルギー供給が不足し、ペースの維持が困難になってくる。その度合いに応じてランニングペースが落ちることになる。ペースを落とさずにエネルギー負債を無視して頑張ると急激なパフォーマンス低下が起こる。徐々にペースを落としていれば、もっと走れたはずである。
(ランニング中のエネルギー補給についてここでは書いていない。後のページの記述によると、ある強度以上の運動中のエネルギー補給は困難とある。)

グリコーゲンローディング。70%Vo2Max強度で自転車をできるだけ長くこがせた。通常食を摂取した後では疲労困憊に至るまで2時間。運動を行う2~3日前から炭水化物を多量に含む食事を摂ると2倍も長く運動が継続できた。炭水化物をほとんど含まない食事を2~3日摂った後では60~90分しか運動が継続できなかった。
体内の炭水化物貯蔵量は600~800kcal。(これで70%強度の運動を2時間も継続できるのだろうか。)

筋グリコーゲンが枯渇した後、再充填されるには48時間以上かかることがある。筋細胞に損傷を生ずるような運動の後は、さらに時間がかかる。マラソンの後などは7日以上かかるかもしれない。
高炭水化物食はグリコーゲンの再充填を助ける。10マイル走後のインターバルで60%くらいまで減少した筋グリコーゲンは炭水化物375gの摂取では1日で回復しない。525g以上摂取した場合には1日で回復する。筋グリコーゲンを消費する運動の後には500g以上の高炭水化物食が必要である。
連日の運動では低炭水化物食での筋グリコーゲン減少が日を追って顕著になる。この場合、衰弱状態、気の抜けた感じになる。
スポーツに必要な食物。炭水化物豊富なもの、特に精製されていないデンプン質のものが良い。全粒穀類、穀類加工品(全麦パン、グラノラやミューズリーなど)、生果実、乾燥果実、生野菜、インゲン豆類、エンドウ類、レンズ豆。食物繊維を含んだこれらは炭水化物豊富なだけでなく、繊維やタンパク質、ビタミンやミネラルも豊富である。炭水化物源に注意を払うだけで、多くの有益な栄養素の摂取も実質的に増すことができる。

運動中の体温調節。エネルギーの70~80%は熱として放出される。熱の放出は放射・対流・伝導・発汗による。1リットルの発汗で600kcalの熱が放出できる。長時間運動では1時間当たり最高2リットルの汗をかくことが可能。蒸発させなければ体温調節の効果がないので注意。
汗は血漿を薄めたものにすぎないので、水分とともに電解質も失う。しかし電解質の損失度合いは水分に比べて緩やかなので緊急の問題にならない。むしろ電解質濃度は運動中上昇する傾向にあり、運動中に補給する必要はないだろう。
水分の不足は重大な問題を引き起こす。体重の2%(60kgで1.2リットル)の水分量が失われただけで筋運動の能力が大きく損なわれることがある。
水分吸収は主に腸で行われ胃ではほとんど起こらない。胃から腸への排出速度が水分吸収速度を決める。600ccまでなら量が多い方が速度は速い。運動中に飲める量はトレーニング中に試して決めること。胃内容は冷たい方が早く排出される。運動強度は排出速度にほとんど影響しない。吸収率もVo2max75%までなら影響しないが、それより高くなると急速に低下する。
運動中に数リットルの汗をかいても体内の電解質濃度はほとんど変化しない。最も喪失の大きなNaCLで、体内貯蔵量の低下は5~7%。水分の喪失の方が大きいので電解質濃度は上昇するか一定に保たれる。電解質の変化に関連した問題が生じることはほとんどない。

炭水化物ローディング。持久性運動のパフォーマンスを制限している要因を探る研究手段であった。食事中の炭水化物、筋の貯蔵エネルギー、持久性能力の関係をつきとめるためのもの。疲労困憊の運動後数日間高炭水化物食を摂ると、通常の運動前レベル以上の筋グリコーゲンの再充填が起こる。炭水化物を制限する期間を設けてから高炭水化物食を摂ると過補償が強められた。1~118%の運動時続時間の延長が認められた。但し、その効果は被験者により非常に多様である。30km走では平均で6%の走行時間が短縮された。レース前半のペースにはあまり影響はないが後半のペースの低下が小さい。炭水化物ローディングによって心筋と筋のグリコーゲンレベルは2~3倍になる。
炭水化物ローディングが有害である可能性があるとする報告がある。概してあまり根拠はなさそうだが、糖尿病のランナーだけはリスクがある。
低炭水化物期に炭水化物を制限するには注意が必要。生命維持に必要な炭水化物の摂取は維持しないといけない。脳へのエネルギー供給だけで1日50gが必要。あまりにも炭水化物を制限すると脂肪の代謝に全面的に依存するようになり、高ケトン体血症になりやすくなる。
炭水化物ローディングによる成績の改善は良くトレーニングされたマラソンランナーではあまり大きくない。
炭水化物ローディングの失敗の原因は、栄養についての知識不足が多い。低炭水化物期に炭水化物の摂取を抑えるのは容易だが、高炭水化物期に通常食より40%以上炭水化物の摂取を増やすことができたのは少数だった。単にたらふく食べるだけでは、炭水化物が多くならない。
6日間の炭水化物ローディングによる筋グリコーゲンの貯蔵レベル。この期間走行距離を減らしている。a)6日間通常食(1日350g摂取)、b)3日間通常食その後3日間高炭水化物食(1日550g摂取)、c)3日間低炭水化物食(1日100g)その後3日間高炭水化物食、での比較。a)でも通常より筋グリコーゲンのレベルは高まっている。b)、c)はa)よりかなり大きく上昇する。b)c)の差はほとんどない。なお、この時はハーフマラソンの成績を比較しているが、a)b)c)でほとんど差は認められない。

減量。エネルギー収支をマイナスにすると身体組成が変化して減量する。脂肪だけを減らすためには他の栄養素は十分に摂って、エネルギーバランスをマイナスにする必要があるが、食事制限だけでは難しい。持久性の運動によって、食事量の減らし方を少なくしてもエネルギーバランスをマイナスにすることができ、脂肪だけを減らすことが可能になる。単に食事量を減らして栄養が不足した状態でエネルギーバランスをマイナスにすると、脂肪以外の組織も減少する。これが長期間続くと代謝的変化を通してエネルギー消費が少なくなって行き減量がますます困難になる。
最も基本的なエネルギー消費は安静時代謝(基礎代謝)によるものである。これは除脂肪組織、特に筋肉において使われているらしい。エネルギー制限をすると、安静時代謝が減少する。24~48時間の制限で15~20%も減少する。この急性の反応によって減少した安静時代謝は除脂肪組織、特に筋肉が減少することで維持される。
食後のエネルギー代謝の上昇は食事誘発生産熱と呼ばれる。これは食物の消化、吸収、同化作用に伴うものと、過剰エネルギーを脂肪として貯蔵せずに効率良く消費するためのものとがある。後者は個人差が大きく、太りやすい人と太りにくい人を作るようである。エネルギー制限をするとこれも減少する。
運動によってエネルギー消費を増やすことによって、除脂肪組織を減少することなくエネルギーバランスをマイナスにでき、脂肪だけを減少することが可能になる。各回のエネルギー消費は少ないが、週に1000kcalずつのマイナスであっても1年では5kgぐらいの脂肪量に相当する。運動後2~4時間は代謝が5%ほどアップすることが示唆されている。さらに継続的な運動によって身体活動が活発化し代謝率はアップする。小さな数値ではあるが長期的な体重維持に役立っている。
脂肪率が減少して体力水準が向上することで、運動が楽になり、毎回のエネルギー消費量を増加することができる。健康感や生活の質の改善につながるだろう。
体重のコントロールに最も適した運動は、週に少なくとも3回、20~30分間気持ち良く続けることができる身体活動である。苦しくなくて楽しめ、元のトレーニングプログラムの片寄りを補うようなものが良い。このような運動プログラムにより、エネルギー消費が増加できるとともに、心臓血管系の能力を向上させ、持久性やスタミナの改善が図れる。

減量。古くから行われている減量プログラムでは甘い食品、イモ類、パンをとらないことが勧められている。この方法では筋グリコーゲンのレベルが保てないので運動能力を減退させる。
炭水化物の摂取は減らさないようにして総エネルギー摂取量を減らし、必要栄養素の総量を減らさないこと。炭水化物、ビタミン、ミネラル、微量元素の摂取量を高くすること。高炭水化物、低脂肪ダイエットを勧める。
まず、飲酒を止めること。アルコールは単位重量当たりで炭水化物、タンパク質の2倍近いエネルギーを持つ。ポテトチップス、ピーナツなど高脂肪食品もいけない。アルコールを飲まなければいけない時は割ることで一杯を長持ちさせること。
次に、食事から目に見える全ての脂肪(バター、オイル、肉の脂肪)を除き、低脂肪食品を摂る。デンプン質の炭水化物食品をもっと食べること。
体重は起床時、排尿・排便後に量るのが良い。1~2kgのわずかな体重変化は自然に起こる。体重が同じでも筋肉と脂肪の重量の変化が起こることがある。時々は皮下脂肪の厚みを測ってチェックするのが良い。
減量のための特別な食事ではなく、食習慣にすること。特にパフォーマンスを犠牲にして体重調節をしてはいけない。
体重増量。筋肉量の増加は激しいトレーニングに対する適応の結果として初めて達成できる。抵抗性の筋トレーニングによってサイズが大きくなる。これはタンパク質合成の増加による。このためタンパク質の必要量が増加するが、体重1kg当たり1.0~1.5gを摂れば十分である。これは通常の食事量で十分摂取可能である。タンパク質を大量摂取しても筋肉量は増大しない。タンパク質補給剤の大量摂取が筋肥大、筋力向上、パフォーマンス向上に何らかの効果をもたらす科学的証拠はほとんどない。必要以上に摂取されたタンパク質は単にエネルギーとして使われるか脂肪として蓄えられるか体外に排泄されるかである。高タンパクの食事は高脂肪になることが多く異常な食習慣を形成することにつながる。タンパク質豊富な食物を摂ると炭水化物豊富な食物を食べる意欲がわかなくなり、トレーニングに必要なグリコーゲンの貯蔵レベルが保てない。
乳製品といっしょに穀物加工品、豆類、種実でデンプン質を摂っていれば、ビタミン、ミネラル、必須アミノ酸も十分な量を摂ることができる。
筋肉量の増加のためには貯蔵脂肪のわずかな増加を容認する必要がある。まず、筋肉量を目標まで増加し、それから運動によって筋肉量を減らさずに脂肪を減らして行くのが良い。

ビタミン。生体がごく少量だけ必要とするがヒトの体内では十分な量を作ることができない。代謝、成長と発達の過程に不可欠な役割を果たす。
脂溶性のビタミン(A、D、E、K)は体内特に肝臓に多量に貯蔵されていいるので栄養状態が良い状態から悪くなってから欠乏が起こるまでには数ヶ月から数年かかる。過剰摂取は良くない。Aの過剰は肝臓の障害を起こすことがある。Dはカルシウムの吸収と処理を増やし、腎臓や肝臓、心臓の細胞に損傷を起こすことがある。
水溶性のビタミン(B、C、葉酸など)は体内にそれほど蓄えられない。必要以上に摂取しても尿から排泄されてしまう。(上記「ビタミン・バイブル」では過剰摂取した分の排泄を必要量を含む排泄と勘違いしているのではないか。)蓄積が少ないため、摂取不足に陥ってから1~2ヶ月(!)と言う短期間で欠乏状態になる。過剰摂取の弊害はほとんどない。
ビタミン欠乏による病気は比較的まれである。(「ビタミン・バイブル」ではアメリカ人のほとんどはなんらかの欠乏状態にあると警告している。)多様な食物を摂取するだけで良く、緑黄色野菜やレバーをそのためにわざわざ大量に食べる必要はない。
ビタミンやミネラルはエネルギー代謝に関わっているのでサプリメントでパフォーマンスを改善できると期待されるが、プラセボ効果以外は認められない。欠乏していればパフォーマンスが損なわれることは認められるが、スポーツ選手は普通の食事で十分に摂取できているはずである。
ビタミンB群の必要量は激しい運動を行っていれば増加する。一般には多くのエネルギーを消費すれば食物摂取量も増加するので通常は不足することはないだろう。食物摂取量を控えてハードなトレーニングをする選手の場合は問題が生じる可能性がある。

からだのおよそ5%は無機質で構成されている。神経や筋肉の機能を維持するために欠くことができない。酵素の働きを助ける触媒として作用するものもある。無機質の代謝異常は劇的で重度の障害を招くことがある。マクロミネラルは比較的多量に必要なもので1日に100mg前後。カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、塩素。微量元素は鉄、マンガン、ヨード、イオウ、コバルト、クロム、セレン、など。特に微量元素の役割や代謝についてはまだ十分に分かっていないので、未精製の食物を豊富に含んだ多彩な食事を摂るように努めるべきである。
鉄。酸素運搬能力のある赤血球のヘモグロビンと筋肉中のミオグロビン、ミトコンドリア内のエネルギー産生経路に含まれる多くの酵素の必須構成要素である。鉄欠乏性貧血は持久性運動のパフォーマンスを著しく低下させる可能性がある。スポーツ選手では運動性貧血が頻繁に見られる。多量の汗から鉄損失が起こり、腸からの吸収の低下に関連している。赤血球の破壊、物理的な障害による尿中へのヘモグロビン排泄も起こる。またタンパク質、ビタミンB12、葉酸及び鉄の欠乏によるヘモグロビン合成の低下もある。体重コントロールのためにエネルギー摂取量を低く抑えている時には鉄の供給も不足しやすい。鉄を含む食品では赤身の肉、レバーが最も良い。全粒穀物や豆類も良い。野菜からの鉄の吸収は良くない。但しビタミンCがいっしょだと鉄の吸収を促進する。

運動中に貯蔵エネルギー源物質を補給できるか。
電解質。運動中に水を飲む第一の目的は発汗によって失われる体液を補うために水分を供給することが最大の目的。水分の吸収率が最大になるようにすべき。飲んだ液体の浸透圧が高ければ体内に吸収されにくい。原理的に薄いほど良いことになる。極めて薄い塩分が腸での液体吸収を促進する証拠はいくらかある。運動時に汗とともに失われる電解質を補給する必要はほとんどない。電解質の補給で痙攣を予防したり治ったりする証拠は何もない。
炭水化物。水に炭水化物を加えると、胃から腸への排出速度が遅くなる。非常に薄い溶液は最大に近い速度で排出されるが、ブドウ糖濃度が3~5%以上になると極端に遅くなる。普通の水を400ml飲んだ場合、15分後に60~70%が胃から排出される。10%の砂糖液では400ml飲んでも15分で5%しか排出されない。浸透圧の問題なので分子量の大きな炭水化物は効率良く胃から排出され、腸で吸収される。グルコースポリマーは胃からの排出が遅くならずに10倍ものエネルギーを供給することが可能である。マラソン程度の速度ではマルチデキストリンの補給でただの水を飲むより30%以上も走行距離が伸びた研究がある。これは追試されていない可能性もある。
グルコースの補給は血糖値を維持する肝臓の能力を補完することに第一の役割がある。低血糖が足を引っ張るような場合に効果があるかもしれない。逆に、運動中に過剰にグルコースを摂取するとパフォーマンスを著しく損なうことがある。急な血糖の上昇のためインスリン分泌が高まると、血糖値が急低下することがある。それほどでなくても、血糖値上昇は脂肪の利用が抑制されて貯蔵グリコーゲンへの依存が高まることがある。グルコースのマイナス効果が出ないように、30~40分以上の運動継続後に少量のグルコースを摂取するのが良い。これは運動を継続するとインスリンの応答が大きく低下するからである。
果糖は肝臓でグルコースに代謝されるのでインスリンを上昇させない。脂肪をエネルギー源として動員しながら、グルコースとして放出されたりグリコーゲンとして蓄えられる。但し、下痢など腸内での障害を起こすことなく受け入れられる量は極めてわずかなので利用は限られる。
グルコースを摂ろうとすると水の吸収が抑えられ、水分を摂ろうとするとグルコースの吸収が抑えられる。腸への炭水化物の移送は炭水化物の濃度には比較的影響されない(先の記述と反する)。夏は水分中心、冬はグルコース中心と言うことになる。

運動後のグリコーゲンの再充填。普通の高炭水化物食に加え100g余分に炭水化物を補足するのが良い。この時、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラルをバランス良く含んだ消化の良い流動食が有効。
利用エネルギー源を変化させる。グリコーゲンの利用割合を減らし遊離脂肪酸の利用を増大する方法が研究されているがこれまで安全で有効な方法は見つかっていない。カフェインの摂取は有利に働く可能性があると考えられている。実際、効果があった報告もあるが、それに必要なカフェインの量は強いブラックコーヒー数杯分になる大量で実用的でない。しかもIOCは禁止薬物リストにあげている。
水素イオン濃度を下げる。強度の高い運動ではグリコーゲンの無酸素代謝により水素イオンが生成・蓄積し筋内の酸性度が高まり、運動能力が損なわれる。筋からの水素イオンの排出を高める方法も研究されている。インタバルトレーニングによって高められる。血液のアルカリ度を高めれば水素イオンの排出速度を高められる。このため重炭酸ナトリウム溶液の摂取などでパフォーマンスを高められる可能性がありそうだが改善の度合いは大きくない。
その他いろいろなエルゴジェニックエイドの試みはあるが、どれもその効果の科学的証拠はほとんどないに等しい。

イギリスの伝統的な食事。3食の例が載っている。
タンパク質119g、脂肪197g、炭水化物303g。エネルギー比率は13.6%、49.3%、32.7%。とんでもなく脂肪が多い。繊維も12.9gと少ない。(ジャンクフードばかりの感あり。これではスポーツはできない。)
本書で健康に良いと推奨されているのは、タンパク質101.5g、脂肪60.4g、炭水化物365g。エネルギー比率は17.9%、21.3%、60.7%。繊維は42g。(ミューズリー、全粒パン、低脂肪食品、野菜・果物が特徴。これでも最近はタンパク質はさらに半分で良いとされている。アイスクリームでカルシウム200mg摂取と言うのは驚き。)

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スポーツ栄養学 Steve Wootton、小林修平監訳