長距離走者の生理科学―生理機能特性とトレーニングの科学的背景
クリエーター情報なし
杏林書院

運動中のホルモンの働き。50~60%VO2maxの乳酸性作業閾値あたりから急激なホルモン分泌の変化が見られる。
糖・脂肪代謝に作用するホルモン。
肝臓グリコーゲンを分解し、グルコースを血中に動員するのは、低強度のうちはグルカゴン、高強度になるとアドレナリン、ノルアドレナリン。
肝臓においてアミノ酸、グリセロール、乳酸からグルコースを新生する。
脂肪組織から脂肪酸を動員する。脂肪分解にはカテコールアミンが中心的な働きをする。βアドレナリン受容体を介して脂肪組織から遊離脂肪酸の動員を促す。
遊離脂肪酸の利用を促進するため、グルコースの細胞内への取り込みを抑制する。インスリンは運動中に分泌低下することでグルコースの細胞への取り込みを抑制し、グルコースの動員を補助する。
持久性トレーニングで肝グリコーゲンを動員するアドレナリン、ノルアドレナリン、グルカゴンの分泌が低下し肝グリコーゲンを節約する。逆にインスリン受容体の感受性は亢進していてグルコースの取り込み能力は格段に向上し、運動中のインスリンの低下も少なくなる。
一方で血中グルコース濃度は長時間の運動の間も安定するが、これは脂肪の利用率が増大していることによる。

持久性トレーニングによってミトコンドリア数や毛細血管密度を増加し、乳酸産生を低下し、筋における有酸素性代謝の環境を優位にする。これにより乳酸閾をあげることができる。
持続走トレーニング。距離走、時間走、早い持続走がある。VO2maxの40~75%の範囲で1~3時間の長時間走行を行う。骨格筋の構造的、生化学的変化を起こし、乳酸閾値を高めるのに有効。特に脂質代謝への影響で、遊離脂肪酸をミトコンドリアまで運搬する能力を高める。グリコーゲンの節約を可能にし、走行時の酸素摂取水準維持能力を向上する。
距離走、時間走。LT速度(乳酸閾値速度)を上限にし、10~30kmを連続して走り通す。週に120kmを目標に1ヶ月間行う。ミトコンドリア数を増加する。
LSD走。VO2maxの35~55%(LT-10~40%)で30kmまでの距離を3時間かけて走る。(早過ぎ!)毛細血管密度を増加する。
早い持続走。VO2maxの60~75%の速度(LT+-10%)で5~10kmを2~3回反復する。走行間は10分歩行かジョギングで回復させる。酸化系酵素を増加する。
インターバルトレーニング。心筋を肥大し一回拍出量を増大させる。また解糖系酵素を増加し、乳酸耐性を増大する。
スピードプレイ。LT+-90%を織り交ぜて走りを楽しむ。脂質代謝を亢進するとともにコンディショニングに良い方法である。野外走、クロスカントリーも同様の効果があり、脚筋力、上体の筋力を養成し、走行技術の改善に役立つ。

テーパリング=減少トレーニング。大会直前はトレーニングの疲労を回復するためにトレーニング量を減らす。トレーニング直後は疲労がピークにあり、その回復に伴ってトレーニング効果が現れ、少し遅れて能力のピークを迎える。能力がピークを迎えてトレーニング効果が薄れ、高まった能力が下がり始めてもその低下速度は遅い。疲労はそれよりも早くさらに回復を続ける。このため、次の運動時の能力は疲労回復が完了近くなるころにピークを発揮することができる。
テーパリング期間は1週間から4週間くらい。4週間以上は能力低下の影響の方が大きくなる可能性がある。1週間では短いかもしれない。2~3週間が適切なようである。
VO2maxはこの期間ほとんど減少しないらしい。走の経済性、走行時のVO2も維持される、あるいは改善される可能性もある。
有酸素性能力は高強度低量(週7.5kmのインターバル)によるテーパリングで改善が著しい。筋グリコーゲンの回復は完全休養と同じくらいだが、総血液量、赤血球量の増加が大きい。
筋力については有酸素能力の高い速筋aの収縮速度が改善する。

疲労回復のための糖質摂取。筋グリコーゲンの回復のためには体重1kgあたり8~10gの糖質を摂るのが望ましい。
運動後に早期に回復させるためにはできる限り速やかに補給することが大切。この時、筋グリコーゲンの回復にはグルコース、肝グリコーゲンの回復にはフルクトースが有効である。タンパク質を同時に摂取する方が筋グリコーゲンの再充填が速まる。ラットの実験ではクエン酸を同時に投与すると速まる。ヒトでどうかは不明。
筋を消耗させないタンパク質・アミノ酸摂取。「第六次改訂日本人の栄養所要量」によると持久性競技者は1日に1.2~1.4g/kgが望ましい。運動直後に経口栄養サプリメントを摂取するとタンパク質合成が促進されるデータがある。この時は動物性タンパク質が有利とする。長時間運動時にエネルギーとして利用されるBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)を含んでいるから。運動前にBCAAを摂取すると運動中の筋タンパク質の分解が抑制される可能性がある。
筋疲労を予防する糖質摂取。現在良く行われるカーボローディングは、1週間前から3日前まで通常食、3日前から高糖質食にし、その間テーパリングをする。この方法で筋グリコーゲンレベルを通常の2倍に高めることができる。通常食は糖質50~60%。高糖質食は糖質70~80%。どちらもタンパク質は10~15%。
運動直前の糖質摂取。運動直前30分~45分に75g以上のグルコースを摂取するとインスリンショックを起こす。少量であればその問題がないので、適量を知っておく必要がある。フルクトースはインスリンショックを起こすことなく肝グリコーゲンの合成を3~4倍促進することから、運動直前の摂取を薦める研究がある。
運動中の糖質摂取。70%強度の運動中にグルコースポリマーを摂取することで運動の持続時間が1時間延長したとする研究がある。最初の20分に2g/kg(120g?0.2g/kgの間違いではなかろうか。)、その後20分毎に0.4g/kg(24g)を摂る。45~75%の長時間運動中に10%の糖質溶液を摂取することで筋グリコーゲンを節約できパフォーマンスを高められたとする報告もある。
中枢性疲労を予防するためのBCAA摂取。フルマラソン中にBCAAを摂取すると精神的、身体的パフォーマンスが改善する可能性のあることが示唆されている。血中BCAA濃度が下がるとトリプトファンの脳内取り込みが増えてセロトニンの合成が増える。セロトニンは中枢性疲労の一因とされている。

広告

長距離走者の生理科学